自転車保険の加入が義務化されている自治体が、少しずつ増えています。
早く加入しなければと焦っていると、「自転車向け保険」として販売されている商品に加入してしまいがちですが、実は新たに加入しなくても大丈夫という方も多いのです。
そこで、この記事では自転車保険とはどんな保険なのか、なぜ新たに加入する必要のない人が多いのか解説します。
自転車保険とは? どんな補償内容なの?
自転車保険の加入が不要である理由を理解するためには、まず自転車保険について知ることが必要です。そこで、まず自転車保険の補償内容について簡単に説明します。
自転車保険の補償内容
自転車保険として販売されている商品は、主に以下のような補償で構成されています。
1.他人に対する損害の補償(賠償責任補償)
例えば自転車を運転していて出会い頭で歩行者に追突し、ケガを負わせてしまった場合や、他人の持ち物にぶつけて壊してしまったような場合は法律上の損害賠償責任が生じます。こうしたときに保険金を受け取れるのが賠償責任補償(賠償責任保険)です。
自転車の事故と言っても決して油断はできません。過去20年程度の間で最も高額な損害賠償命令が出たのは、小学5年生が運転する自転車が62歳の女性に追突し、意識不明となって後遺障害が残った事例です。このケースでは9521万円もの賠償命令が出ています(平成25年7月 神戸地裁)。
この事例も含め、その他に以下のような高額事例があります。
ここまで高額な賠償義務が生じるケースはそれほど多くありませんが、誰しもうっかり他人にケガを負わせてしまうことくらいはあるでしょう。こうした場合に備えて加入するのが賠償責任補償です。
2.自身の死亡・ケガの補償(傷害補償)
一般的な自転車保険には賠償責任補償のほか、自身の死亡・後遺障害の補償やケガの補償(傷害補償)がついています。
死亡・後遺障害の補償は100~500万円程度、ケガの補償は入院または通院1日につき2000~5000円程度が保険金として支払われるものが多いです。
3.ロードサービス
一部の商品では、外出先でパンクなどにより自走不能になったときのレッカーサービスが付帯されています。ロードバイクのような長距離移動をする自転車ではこうした補償が役立つのではないでしょうか。
盗難保険は別の商品
自転車の保険と言うと盗難被害や破損したときの補償を思い浮かべる方もいるでしょうが、一般的な自転車向け保険にはこうした補償は含まれていないと考えてください。
盗難や破損については自転車メーカーの保証を利用したり、別に販売されている盗難対策のための保険に加入したりすることが必要です。
補償範囲は1人から家族全員まで。子供も問題なし
自転車保険の加入を検討している方の中には、お子さんが事故を起こしたときのことが心配だからということも多いでしょう。
自転車向け保険の一般的な商品は、個人での加入から家族全員を対象とするものまで幅広くプランが用意されていることが多く、もちろんお子さんも補償の対象となります。そのため、お子さんが万が一、他人にケガをさせてしまったときでも安心です。
「自転車保険は不要」という話は本当?
この記事を読んでいる方の中には「自転車保険は不要」という話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。正しくは「不要」なのではなく、「新たに加入する必要のない人が多い」です。以下で詳しく解説します。
義務化されているのは「賠償責任補償」のみ
前項で4種類の補償について解説しましたが、自転車保険の加入が義務化されている自治体であっても、義務化されているのは「賠償責任補償」のみで、他の補償は義務化されてはいません。
以下の画像は埼玉県の自転車保険に関するリーフレットですが、緑の枠で囲ったところをよく見てください。
「自転車利用中の事故により、他人にケガをさせてしまった場合等の損害を補償できる保険等への加入が義務化されました。」という説明があります。
自転車保険への加入が義務化された理由もリーフレットに書かれていますが、あくまで「被害者救済」や「加害者の経済的負担の軽減」が目的です。そのため、自身のケガの治療費を確保するために義務化する必要はないということです。
そして、他人への賠償責任を果たすための補償はすでに他の保険でカバーされていることが多く、その場合は新たに自転車向けの商品に加入する必要がないのです。
どんな保険でカバーされているの?
他人への賠償責任補償は「個人賠償責任保険(補償)」や「日常生活賠償責任保険(補償)」といった名称になっていることが多いです。これらの保険には単体で加入できないので、他の保険に「特約」として付帯されています。
個人賠償責任補償が付帯されているのは以下のような保険です。
- 火災保険
- 自動車保険
- 傷害保険
その他、クレジットカードのオプションとして付帯されていることもありますし、損害保険会社の商品だけでなく共済にもあります。
個人賠償責任保険は1本で同居の家族全員と、生計を一にする別居の未婚の子も対象となります。また、自転車事故に限らず他の理由で他人に損害を与えた場合も補償されるので、いざというときにとても役立つ保険なのです。
なお、保険金額は2000万円程度のものから無制限まであります。こうして他の保険に付帯されているケースが多いことを知らなかったという方は保険証券を確認したり、加入している保険会社に問い合わせたりして確認しておきましょう。
おすすめ自転車保険・3選
他の保険に個人賠償責任保険が付帯されていない場合やケガの補償もほしいという場合は、自転車保険に加入するのも決して間違った選択肢ではありません。ここでは数ある自転車保険の中でも特徴のある商品を3つ、紹介します。
サイクル安心保険(全日本交通安全協会)
「サイクル安心保険」とは、車の免許をお持ちなら勧誘された経験があるはず(一部自治体を除きます)の交通安全協会が募集する自転車保険で、交通安全協会の「自転車会員」になるという位置づけの商品です。
プランAからプランCまで3種類あり、プランAは賠償責任補償のみで年間の掛金が1230円(Web申し込みの場合)という安さが特徴です。これで保険金額は1億円、かつ示談交渉サービスがついています。
ただし、一般的な自転車保険の賠償責任補償が日常生活全般を対象とするのに対し、サイクル安心保険はあくまで自転車を利用しているときのみが対象なので注意してください。だから掛金(保険料)が安いものと理解しましょう。
公式サイト:サイクル安心保険|全日本交通安全協会
サイクルアシスト(楽天損保)
2019年のオリコン顧客満足度調査で1位になった楽天損保の「サイクルアシスト」は、オーソドックスな補償内容の自転車向け保険です。
プランは「個人プラン」「カップルプラン」「ファミリープラン」の3タイプで、死亡・後遺障害やケガの補償範囲(補償される人の範囲)を選ぶことができます(賠償責任の補償は1人が加入すれば全員が補償されます)。
なお、ケガの補償については入院と手術が対象で、通院は補償されませんので注意してください。
公式サイト:サイクルアシスト|楽天損保
自転車向け保険 Bycle(au損保)
au損保の自転車向け保険「Bycle」は、多様なラインナップが特徴です。
自転車事故の加害者になってしまったときの賠償責任補償や自身のケガの補償はもちろん、もらい事故のときの弁護士費用についての補償やロードサービス(自宅までの搬送)が用意されています。
自身のケガの補償については入院や手術だけでなく通院も補償されるので、万全の補償がほしいという方には向いています。
公式サイト:自転車向け保険 Bycle|au損保
「TSマーク保険」に注意!
公益財団法人日本交通管理技術協会が運営する「TSマーク」保険は、自転車整備士の資格を持つ者が点検・確認をした自転車を対象とする保険で、第一種TSマーク(青色マーク)と第二種TSマーク(赤色マーク)があります。
プロによる定期的な点検を受けないと加入できないので、仕組みとしては合理的です。しかし、補償される条件がかなり厳しいので、いざというときに保険金がおりない可能性が高く、加入については注意が必要です。
補償の内容は以下の図のとおりですが、賠償責任補償は被害者が死亡もしくは重度後遺障害(1~7級)を負った場合のみ、自身のケガについても最低15日以上の入院をしないと保険金はもらえません。青色TSマークに加入していて15日以上の入院をした場合にもらえるのは、総額でわずか1万円です。1日あたりではありません。
そのため、TSマーク保険に加入しただけで安心してはいけません。最低でも他の保険で賠償責任補償が確保されていることを確認しておいたほうが良いでしょう。
公式サイト:TSマーク|日本交通管理技術協会
まとめ
自転車向け保険は保険料がそれほど高くないので、加入が義務化されている自治体に住んでいると、深く考えることなく加入してしまいがちです。
しかし、本文でも説明してきましたが、あくまで義務化されているのは他人に被害を与えてしまったときのための補償のみです。自身のケガは健康保険が使えますし、自転車を運転していて大ケガをすることは滅多にないはずなので、貯蓄で対応すれば良いのではないでしょうか。
そのため、自転車保険への加入を検討するのは、他の保険に個人賠償責任保険が付帯されていないかを確認してからにしましょう。